題名
小説『探偵部倶楽部最後の事件』 Part1.リバーシブル残酷系
責任者
梗概
探偵倶楽部の面々はスキーに行くことになった。
本文
耳を澄ますと、2年生達の歌声が聞こえた。 今日は卒業式の予行演習か。僕は眠い頭で考える。 受験シーズンも大方終わり、卒業式を二週間後に控えた登校日の昼下がり。 探偵倶楽部の面々はずっと溜まり場にしてきた教室にこれという用件もなく集 まっていた。 名残惜しい、などと考えるようなしおらしさは多分誰にもない。単に、他に 居場所がないのだ。卒業後の進路が決まっている者も決まっていない者も、今 という時間が空白であることには変わりない。 「終わってみると、短いものだったな」 机に座り、天井を仰ぎ見ながら副部長の当麻君が言った。 無言をもって同意とする。ある天才的な一年生の独断で発足したこのままご とのような探偵組織も、3年間一人も新入部員を取らなかったのでは続くわけ もない。僕達の卒業と共に解散だ。 その天才的な探偵──部長の光太郎が教卓に座ったまま脚を組み替え、ため 息をつく。ちなみに光太郎はこんな名前だが女だ。 「退屈。葬希、なんか芸しなさい」 「ワン」 「……なにそれ」 「犬の真似です。面白かったですか?」 光太郎は僕からまったく興味を失った様子で窓の外を見る。 知り合った当初は彼女の突拍子もない注文に面食らったこともないではない が、流石に三年も付き合えば呆れさせて関心を逸らす手段くらい僕も心得た。 なんとなく全員で窓の外を眺める。 「……ねぇ、最後だしみんなで旅行でも行ってみようか」 きっかけは、そんな光太郎の何気ない一言だった。 そもそも彼女が何気ない調子で部員に何かを「提案」するということが異例 であった。僕の知る限り彼女はいつも独断で全てを進めるタイプであったし、 部内でナンバー2の権力を持つ当麻君もそのフォローをすることはあっても 真っ向から対立すると言うことはそうなかった。無駄だからだ。 「それもアリだな。暇だし」 まずは当麻君が食いついた。 「私は……」 「美沙希は勿論来るでしょ」 小柄で寡黙な月影美沙希は有無を言わさず参加を決定された。 「そういうことでしたら、おじ様のやっている○○山のペンションが今の時期 なら空いていると思いますけど、いかがですか?」 金満家の滝山みのりが場を提供した。 そして、大勢の流れが参加と言うことになると拒否するわけにはいかなくな るのが、「里見葬希」という僕のキャラクターだ。 「面白そうですね。いつにしましょうか──」 家に帰りすぐ、電灯も付けずに洗面所に向かう。 僕は冷水で顔を洗った。何度も。何度も。何度も。 「旅行だって? 気楽なもの」 唐突に、鏡の中に立つ姉が僕に話しかけてきた。 「こっちだって面倒なんだ。それより、久々だね。起きているの」 「最近ずっと眠いの……多分、もう長くないんだわ」 鏡の中から意地悪い自嘲気味の笑みを浮かべる姉。その笑みが僕に何を求め ているのか、皆目検討が付かない。双子の姉、故との距離は広がり続けている ような気がする。僕は急激な吐き気を覚え、洗面台にそのまま吐瀉した。 ──そして世界は裏返る。