三島帽子店
近鉄吹利駅近くの商店街、ビルとビルの合間の小道を抜けると忽然と現れる古びた木造の帽子屋。ビルの谷間にもかかわらず穏やかな光が射し込む空間にその店はある。
正面の小さな庭にはドライフラワーが咲き誇り、入り口に三島帽子店とだけ書かれた古びた看板が下げられている。その看板の脇から伸びる赤い煉瓦道は奥に佇む小屋──どこかの高原のロッジのような風情のログハウス──へと続く。扉を開くとベルの音が静かな店内に響き渡る。そこには妙に手足の長いシルクハットの男が、大きなオーク材のテーブルに腰掛けている。そうして彼は軽く手に持ったティーカップを掲げる。
「ようこそお嬢さん。当店は子供のための帽子店。帽子と、それ以外の全てがここにはあります。お嬢さんの欲しい物であれば、だが。さあ、まずは何処でも好きなところに腰掛けて。そうだ。お茶でもいかがかな」